2017年3月7日火曜日

本屋

本屋
 ところで、私は本屋でバイトをしている。本も漫画も大好きだ。もう天職かもしれないと思うくらいに楽しい。棚に並ぶ本の傾向から世の中の時勢を感じとったり、「時の人」に敏感になったりする。街によっても並んでいる本・積まれている本は違うし、それを見て回るだけの日を企画したい。そしてバイト先で本を買うと1割の社割が適用される。最高か!!!と叫びたいところなのだが、ちょっと待ってほしい。「知り合い」に見られながら本を買うって、恥ずかしくないですか?

 これあんまり共感を得られないので逆にびっくりしているのだが、自分で選んだ本を、職場の同僚のレジで買うのを想像してほしい。別にエロ本とか猟奇小説とかアイドル写真集とかBL漫画じゃない「普通の本」、それすらちょっと変な汗をかく。確かに私はアラビア語の辞書とデザイン入門と北欧のミステリ小説と東直子の歌集とファンタジー漫画同時に買ったりしてるけど、別にそれは内容の問題じゃない。どんな本でも同じだ。一緒に店内を回りながら選んだならまだしも、いきなりそこまで懇意でないひとに自分の買う本を知られることはあまり嬉しくない。本を買うこと、それは無意識に自分の内面を晒している行為に思えて仕方がない。
 本屋の店員がこういうことを言ったら絶対ダメだと思うが、言ってしまうと、買っていく書籍をもとに、お客様の人生や状況を想像してしまうものである。例えばスーパーなら「今夜は鍋かな」とか「ひとりぐらしなのかな」とか「いちご味のアイス好きなんだな」くらいはレジを打てば反射的に察するだろう。本屋はそれがより具体的になっていると思ってほしい。「いらっしゃいませ、お品物お預かりします。カバーはおかけしますか?」という言葉とともにバーコードを通す、同時に「課長なんだな」「初めて人事課に任命されたんだな」「就職活動中なんだな、航空関係希望か」という想像が渦巻くのはまだ序の口だ。「離婚協議中なのだろうか」「部下を合法的に辞めさせたいのだろうか」「上司を訴えたいのだろうか」「お子さんいるんだな…小学校受験か…」「身近な方が亡くなったのかな」「1日2時間しか働かなくても悠々した生活送りたいんだな」「株で効率良く稼ぎたいんだな」「キャリーバック持ってるけどこの官能小説、新幹線で読む用なんだな」「日本第一主義者なのかな」「一日一回の腹筋運動で痩せたい、わかるぞ」「ああグアム旅行かあ、隣のひと彼女さんだな」もう打ちきろう。ダメだ。こんなことをレジのたびに考えていると思ってください。FP1級問題集と一緒に際どいアイドルの写真集買って行くおじさまがこの世には思いの外たくさんいらっしゃいます。こうしてみるとわたしが逆の立場になった時、絶対知り合いにレジを打たれたくないのは完全に自業自得だ。明らかに妄想過多である。こんなふうに自分の思想や思考を無防備に晒している気分になるのである。そして実情はもっと多様であろう。
 ああ、これだから本屋バイトは。楽しくてやめられない。



次回は「距離感 その1」です。その次は「宮崎駿監督」です。

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