本屋
ところで、私は本屋でバイトをしている。本も漫画も大好きだ。もう天職かもしれないと思うくらいに楽しい。棚に並ぶ本の傾向から世の中の時勢を感じとったり、「時の人」に敏感になったりする。街によっても並んでいる本・積まれている本は違うし、それを見て回るだけの日を企画したい。そしてバイト先で本を買うと1割の社割が適用される。最高か!!!と叫びたいところなのだが、ちょっと待ってほしい。「知り合い」に見られながら本を買うって、恥ずかしくないですか?
これあんまり共感を得られないので逆にびっくりしているのだが、自分で選んだ本を、職場の同僚のレジで買うのを想像してほしい。別にエロ本とか猟奇小説とかアイドル写真集とかBL漫画じゃない「普通の本」、それすらちょっと変な汗をかく。確かに私はアラビア語の辞書とデザイン入門と北欧のミステリ小説と東直子の歌集とファンタジー漫画同時に買ったりしてるけど、別にそれは内容の問題じゃない。どんな本でも同じだ。一緒に店内を回りながら選んだならまだしも、いきなりそこまで懇意でないひとに自分の買う本を知られることはあまり嬉しくない。本を買うこと、それは無意識に自分の内面を晒している行為に思えて仕方がない。
本屋の店員がこういうことを言ったら絶対ダメだと思うが、言ってしまうと、買っていく書籍をもとに、お客様の人生や状況を想像してしまうものである。例えばスーパーなら「今夜は鍋かな」とか「ひとりぐらしなのかな」とか「いちご味のアイス好きなんだな」くらいはレジを打てば反射的に察するだろう。本屋はそれがより具体的になっていると思ってほしい。「いらっしゃいませ、お品物お預かりします。カバーはおかけしますか?」という言葉とともにバーコードを通す、同時に「課長なんだな」「初めて人事課に任命されたんだな」「就職活動中なんだな、航空関係希望か」という想像が渦巻くのはまだ序の口だ。「離婚協議中なのだろうか」「部下を合法的に辞めさせたいのだろうか」「上司を訴えたいのだろうか」「お子さんいるんだな…小学校受験か…」「身近な方が亡くなったのかな」「1日2時間しか働かなくても悠々した生活送りたいんだな」「株で効率良く稼ぎたいんだな」「キャリーバック持ってるけどこの官能小説、新幹線で読む用なんだな」「日本第一主義者なのかな」「一日一回の腹筋運動で痩せたい、わかるぞ」「ああグアム旅行かあ、隣のひと彼女さんだな」もう打ちきろう。ダメだ。こんなことをレジのたびに考えていると思ってください。FP1級問題集と一緒に際どいアイドルの写真集買って行くおじさまがこの世には思いの外たくさんいらっしゃいます。こうしてみるとわたしが逆の立場になった時、絶対知り合いにレジを打たれたくないのは完全に自業自得だ。明らかに妄想過多である。こんなふうに自分の思想や思考を無防備に晒している気分になるのである。そして実情はもっと多様であろう。
ああ、これだから本屋バイトは。楽しくてやめられない。
次回は「距離感 その1」です。その次は「宮崎駿監督」です。
2017年3月7日火曜日
パンシザ
パンプキンシザーズ
パンプキンシザーズが面白すぎてここ数日は寝るのが惜しかった。だいぶ前に買った漫画で、今回読み通すのは2回目なのに既刊20巻で3日かかった。読むのになんとなく時間がかかるのだ。文字がそこまで多いわけじゃないのに。例えば20巻あたりのナ○トとかに比べたら全然ない。登場人物もそこまで多くはない。コマも細かくない。でも読み飛ばすことを許してくれない。そんな漫画。
パンプキンシザーズの説明を丁寧に一からしてストーリーまで辿るのは大変困難だし長文極まりなくなるのでもう好き勝手言いますから興味を持ったひとからお願いだから読んでください。これはこんなブログなんかで面白さが伝わる漫画だとは思っていない。たぶんだけどキングダム芸人さんが同じようなことを言っていた。うまく伝わらないし言うことすべてネタバレになるから言えないけどとにかく面白いから読んでおくれ。
一言でイメージを伝えるなら、「シリアス7割ギャグ2割エロ1割の西洋版銀魂」である。舞台のモデル(あくまでモデル。一切の考証不要!by作者)は第一次世界大戦前後のドイツ、らしい。「フロスト共和国」との永い戦争を停戦に持ち込んだ「帝国」には戦争に端を発した貧困・飢餓・疫病・兵隊の野盗化・難民・差別などの「戦災」がいまだに跋扈し、民の生活を苦しめていた。その「薄氷の条約」締結後3年目のとある日に、帝国陸軍情報部第3課の実働小隊がダムに隣接する派遣先の村で戦場帰りの軍人と出会うところから物語は始まる。ようするに出会っちゃうんである。
ほんとにこの漫画はヒロインがかっこいい。いまどきここまで貴族をかっこよく描く人はいない。愚鈍にしてうっとおしい権力機構としてのみの存在をあたえられがちな貴族が、パンシザの世界では一味違い、深く掘り下げられてゆく。技術革新によってその武力としての価値を失った貴族が自らのアイディンティティをどう保とうとしたかが、そのひと・家それぞれによって描かれる。もちろん往来のイメージ通り、平民をひととして扱わず愚かな権力を振りかざしたり、プライドをこじらせたりする者もいる中で、その影響力を自覚して民衆の前に堂々と立つ者もいる。ヒロインの名はアリス・L(レイ)・マルヴィン、陸情3課実働小隊「パンプキンシザーズ」の隊長で階級は少尉である。拝命十三貴族の一つマルヴィン家の第三公女にして現在の次期当主であり、武家貴族らしく凛とした性格で、生真面目で聡明、誇り高くどこまでも公平であろうとする。そしてなにより、めちゃくちゃ強い。まあ強い。そもそも「切り裂きし者L(レイ)」という名を皇帝より授かっただけあって剣をもたせたら、軍の随一の制圧機関である陸情1課第1小隊「第1の大剣(クレイモア・ワン)」とタメを張るレベルである。
ここでひとついっておくと、ちょいちょいでてくる単語がどうしょうもなく笑えるレベルで厨二です。先述のダムの村で出会ったもうひとりの主人公ランデル・オーランドは、戦争中901ATTに所属していたけど、それは「不可視の9番(インビジブル・ナイン)」と呼ばれる、兵士自らにとっても非人道的な戦い方をする非公式部隊群のうちの、対戦車猟兵部隊(Anti Tank Trooper)で通称「命を無視された兵隊(ゲシュペンスト・イエーガー)」である。お分りいただけただろうか。じわじわくすぐられるので乞うご期待。
こういうネーミングもそうだが、台詞運びが非常に特徴的だと思う。ものすごくリズムがかっこいいのである。キャラクター・状況に合わせたリズム、口調、言葉選び、声色が表現されているし、総じてかっこいい。モノローグと台詞の組み合わせも抜群によい。私がこの漫画を知ったきっかけはヒロインの台詞だったのだが、それは「次期当主が幼い弟に譲られるとして、あなたはどうしてそこまで一生懸命責務を果たそうとするのか」という問いに向けて放った以下の言葉である。
「いつか失うものに意味がないのなら あなたの命もまた 無意味でしょう」
「時か 病か 刃か いずれは奪われる ならば今すぐ死にますか?」
2巻でこの熱さであります。20巻やばい。
伏線の回収とかネタフリとかも異常に上手い気がする。ワンピースでラブーン繋がった時とかもびっくりしたけど、2巻で表紙やコマに写り込んでるだけの武器が19巻のキーポイントにいきなり登場してきたりとかする。そもそも、戦車と生身で戦う歩兵という「ありえんやろ!」っていう設定がちょっとずつ紐解かれて「うそだろ…なるほどな…なんてこった…」ってつながるのは17巻とかそんなもんである。ちょっとずつ情報を得ていってその納得にたどり着くわけだが、正直一体どこでその情報を読者が手に入れたんだったかわからないくらいに散りばめられていて、その俯瞰の出来なさはまるで登場人物と一緒にその場を生きているような妙なリアリティを生んでいる。アリスも物語とともに成長してゆく。抗・帝国軍(アンチアレス)の戦車を撃退したとき、いっさいの嘲笑なく放った台詞はたぶんお姉さんの影響だ……感慨深い。
脇役やモブキャラがぜんぜんモブになってくれないのもとても好きだ。オレルドやマーチスはもちろんウェブナー中尉とかかっこよすぎた。ハーケンマイヤー三等武官にはなんと泣かされた。登場は明確なギャグ要員だったのに……。1巻での入院先の看護婦さんでさえ名前が与えられて、のちに帝都で大規模なテロが起こった時に再登場して命を懸けて人を救ったりしているんですよ。シビア極まりない状況下、ひとりひとりの必死の戦いが誰かのために繋がれていくようすに、どうしようもなく胸が熱くていっぱいになる。
命とか、それを奪うこととか、戦争とはなんなのか、復興とはなんなのか、不公平とはなんなのか、国家とはなんなのか、科学と人類の関係はどうあるべきなのか、人と人との関係性の多様さ、そういったものを多方面から、しかも物語としておもしろく読めるってえらいことです。難があるとするとまずヒロインとヒーローが生き方として不器用すぎてみていて辛い。ヒロインがこれまで逃げだと思って騙ってこなかった「正義」を、そこから逃げるのも一種の卑怯だと感じて背負う決意をしたり、ヒーローが零距離で相手を殺す部隊に所属して大量の殺戮を犯す器官を備えていながら「人を殺すことはどんな状況でも、たとえ戦時でもいけないことに変わりがない」「人の幸せを根こそぎ奪った人間が、自分の幸せを感じるのは許されない」という父親(娼館の闇医者…)から受け継いだ信念を決して手放せなかったり、ほんとどんどんふたりが人間を辞めていってて辛い。あと「月刊少年マガジン」という、漫画雑誌のなかでは第3位の発行部数を誇っているのになぜか地味でマイナー!な月刊誌の連載なため、進行はとてものんびりしたものである。コミックスが年1にでるか出ないかになってきた…。21巻がいまから楽しみでなりません。
あまりに長くなったのでタイトルを変更しました。次回は「本屋」、その次は「距離感 その1」です。
パンプキンシザーズが面白すぎてここ数日は寝るのが惜しかった。だいぶ前に買った漫画で、今回読み通すのは2回目なのに既刊20巻で3日かかった。読むのになんとなく時間がかかるのだ。文字がそこまで多いわけじゃないのに。例えば20巻あたりのナ○トとかに比べたら全然ない。登場人物もそこまで多くはない。コマも細かくない。でも読み飛ばすことを許してくれない。そんな漫画。
パンプキンシザーズの説明を丁寧に一からしてストーリーまで辿るのは大変困難だし長文極まりなくなるのでもう好き勝手言いますから興味を持ったひとからお願いだから読んでください。これはこんなブログなんかで面白さが伝わる漫画だとは思っていない。たぶんだけどキングダム芸人さんが同じようなことを言っていた。うまく伝わらないし言うことすべてネタバレになるから言えないけどとにかく面白いから読んでおくれ。
一言でイメージを伝えるなら、「シリアス7割ギャグ2割エロ1割の西洋版銀魂」である。舞台のモデル(あくまでモデル。一切の考証不要!by作者)は第一次世界大戦前後のドイツ、らしい。「フロスト共和国」との永い戦争を停戦に持ち込んだ「帝国」には戦争に端を発した貧困・飢餓・疫病・兵隊の野盗化・難民・差別などの「戦災」がいまだに跋扈し、民の生活を苦しめていた。その「薄氷の条約」締結後3年目のとある日に、帝国陸軍情報部第3課の実働小隊がダムに隣接する派遣先の村で戦場帰りの軍人と出会うところから物語は始まる。ようするに出会っちゃうんである。
ほんとにこの漫画はヒロインがかっこいい。いまどきここまで貴族をかっこよく描く人はいない。愚鈍にしてうっとおしい権力機構としてのみの存在をあたえられがちな貴族が、パンシザの世界では一味違い、深く掘り下げられてゆく。技術革新によってその武力としての価値を失った貴族が自らのアイディンティティをどう保とうとしたかが、そのひと・家それぞれによって描かれる。もちろん往来のイメージ通り、平民をひととして扱わず愚かな権力を振りかざしたり、プライドをこじらせたりする者もいる中で、その影響力を自覚して民衆の前に堂々と立つ者もいる。ヒロインの名はアリス・L(レイ)・マルヴィン、陸情3課実働小隊「パンプキンシザーズ」の隊長で階級は少尉である。拝命十三貴族の一つマルヴィン家の第三公女にして現在の次期当主であり、武家貴族らしく凛とした性格で、生真面目で聡明、誇り高くどこまでも公平であろうとする。そしてなにより、めちゃくちゃ強い。まあ強い。そもそも「切り裂きし者L(レイ)」という名を皇帝より授かっただけあって剣をもたせたら、軍の随一の制圧機関である陸情1課第1小隊「第1の大剣(クレイモア・ワン)」とタメを張るレベルである。
ここでひとついっておくと、ちょいちょいでてくる単語がどうしょうもなく笑えるレベルで厨二です。先述のダムの村で出会ったもうひとりの主人公ランデル・オーランドは、戦争中901ATTに所属していたけど、それは「不可視の9番(インビジブル・ナイン)」と呼ばれる、兵士自らにとっても非人道的な戦い方をする非公式部隊群のうちの、対戦車猟兵部隊(Anti Tank Trooper)で通称「命を無視された兵隊(ゲシュペンスト・イエーガー)」である。お分りいただけただろうか。じわじわくすぐられるので乞うご期待。
こういうネーミングもそうだが、台詞運びが非常に特徴的だと思う。ものすごくリズムがかっこいいのである。キャラクター・状況に合わせたリズム、口調、言葉選び、声色が表現されているし、総じてかっこいい。モノローグと台詞の組み合わせも抜群によい。私がこの漫画を知ったきっかけはヒロインの台詞だったのだが、それは「次期当主が幼い弟に譲られるとして、あなたはどうしてそこまで一生懸命責務を果たそうとするのか」という問いに向けて放った以下の言葉である。
「いつか失うものに意味がないのなら あなたの命もまた 無意味でしょう」
「時か 病か 刃か いずれは奪われる ならば今すぐ死にますか?」
2巻でこの熱さであります。20巻やばい。
伏線の回収とかネタフリとかも異常に上手い気がする。ワンピースでラブーン繋がった時とかもびっくりしたけど、2巻で表紙やコマに写り込んでるだけの武器が19巻のキーポイントにいきなり登場してきたりとかする。そもそも、戦車と生身で戦う歩兵という「ありえんやろ!」っていう設定がちょっとずつ紐解かれて「うそだろ…なるほどな…なんてこった…」ってつながるのは17巻とかそんなもんである。ちょっとずつ情報を得ていってその納得にたどり着くわけだが、正直一体どこでその情報を読者が手に入れたんだったかわからないくらいに散りばめられていて、その俯瞰の出来なさはまるで登場人物と一緒にその場を生きているような妙なリアリティを生んでいる。アリスも物語とともに成長してゆく。抗・帝国軍(アンチアレス)の戦車を撃退したとき、いっさいの嘲笑なく放った台詞はたぶんお姉さんの影響だ……感慨深い。
脇役やモブキャラがぜんぜんモブになってくれないのもとても好きだ。オレルドやマーチスはもちろんウェブナー中尉とかかっこよすぎた。ハーケンマイヤー三等武官にはなんと泣かされた。登場は明確なギャグ要員だったのに……。1巻での入院先の看護婦さんでさえ名前が与えられて、のちに帝都で大規模なテロが起こった時に再登場して命を懸けて人を救ったりしているんですよ。シビア極まりない状況下、ひとりひとりの必死の戦いが誰かのために繋がれていくようすに、どうしようもなく胸が熱くていっぱいになる。
命とか、それを奪うこととか、戦争とはなんなのか、復興とはなんなのか、不公平とはなんなのか、国家とはなんなのか、科学と人類の関係はどうあるべきなのか、人と人との関係性の多様さ、そういったものを多方面から、しかも物語としておもしろく読めるってえらいことです。難があるとするとまずヒロインとヒーローが生き方として不器用すぎてみていて辛い。ヒロインがこれまで逃げだと思って騙ってこなかった「正義」を、そこから逃げるのも一種の卑怯だと感じて背負う決意をしたり、ヒーローが零距離で相手を殺す部隊に所属して大量の殺戮を犯す器官を備えていながら「人を殺すことはどんな状況でも、たとえ戦時でもいけないことに変わりがない」「人の幸せを根こそぎ奪った人間が、自分の幸せを感じるのは許されない」という父親(娼館の闇医者…)から受け継いだ信念を決して手放せなかったり、ほんとどんどんふたりが人間を辞めていってて辛い。あと「月刊少年マガジン」という、漫画雑誌のなかでは第3位の発行部数を誇っているのになぜか地味でマイナー!な月刊誌の連載なため、進行はとてものんびりしたものである。コミックスが年1にでるか出ないかになってきた…。21巻がいまから楽しみでなりません。
あまりに長くなったのでタイトルを変更しました。次回は「本屋」、その次は「距離感 その1」です。
短歌
短歌が好きだ。
去年四月の終わりのある日、
1人では広すぎる待合室の飲みかけの缶コーヒー甘い
と書き付けた、それから一年近くたって、
短歌が好きだ。
なぜ突然こんなにはまり込んだのかさっぱりわからない。
31音しかないのだ。短歌は。
きっとこれからわたしが勝手なタイミングでぼろぼろと語るだろう
ピーマンの切り口君に見せたくて呼び鈴押しにゆく夏の夜(
一度だけ好きと思った一度だけ死ねと思った 非常階段(東直子)
わたしの人生で大太鼓鳴らすひとよ何故いま連打するのだろうか(柳谷あゆみ)
夜景にも質感のあるこの夜をこの夜を忘れるな手のひら(
シューシューと息白ませて自転車を駆る年末の夜星は無く(野原海)
次回タイトルは「パンシザと本屋」を予定しています
その次は「距離感 その1」を予定しています。よい夢を。
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